僕の名前は成瀬陸斗(なるせりくと)、脇役になりたい……。

俺の名前は鈴木貴史(すずきたかし)、主役になる!

……そんな2人の日常の話。


「なぁ陸斗、俺ってさ……」

「あ、おはよう。どうし……」

「すっっっげぇ、主役に向いてるとおもわねぇー!?」

よく、朝一番にそんなテンションで話せるな。そう思った今日の貴史の挨拶。
僕はとにかく、脇役になりたい。その為ならそこそこの努力はしている。まず、部活は帰宅部。王道のサッカー部やバスケ部、野球部と違って目立たないし。テストも、問題を見て、毎回80点を目指す。なのに、なのに……!!なんで、目立つんだ……。

「いや、どう考えてもお前より陸斗の方が主役向きだろ。」

「おい、やめろよ。俺が主役なんて嫌だって分かって言ってるだろ、亮。」

高橋亮(たかはしりょう)。こいつには、高校生になって初めてツッコミ役になってくれた。と日々感謝してもしきれない。ただ、僕らの思いは一向に伝わらない。

「亮があんな事言うから、貴史が再起不能になってる。」

「うわぁ!ごめん、ごめん!だってさ、陸斗の朝の取り巻きに比べたら、貴史の周りは俺しかいなかったぞ?」

何故だ?何故、再起不能になった後の追い討ちをかける?

「はぁ!?取り巻きだけが、主役の条件じゃねーだろっ!俺の家族関係みてみろよっ!母ちゃんと父ちゃんが離婚して、父子家庭だったのに父ちゃんは自分探しの旅に出て、姉ちゃんは結婚して出てったから、俺は家に1人なんだよ!」

「おぉ、確かに主役にありがちだな。陸斗の家は美男美女の両親に、異常なキャラのばぁちゃんいるけど。あ、でもさ、主役って本人が重要じゃね?何らかの特徴がないと……」

そうだ、貴史には特徴が無い。僕は色々出来すぎるから隠しているが、貴史は努力人だ。僕は絶対に口には出さないけどな……。だから、お前も何も言うなよ、亮。

「お前、苗字のランキング何位だっけ?」

「2位だけど?1位は佐藤だ。」

「ほらな?1位だと逆に、多いよなって言えるけど、2位って微妙じゃね?」

「………」

「あと、お前学年順位いつも4位じゃん。あと1歩で3位だけど、そこまでいかないみたいな?」

「………………」

「あとは、部活?サッカー部に所属しているものの、ぎりぎりレギュラー……。」

「………………………………!」

もう、止めてやれ。見てるこっちが悲しくなる。

「それに比べての陸斗だろ?」

「おい、わざわざ僕を……」

「苗字は、ランキングに入ってるわけでもないがカッコイイだろ?成瀬って。しかも、学年順位とか関係なく全教科いつも80点って、あれは目立つわ……」

……!そうなのか?1番無難じゃないか?

「帰宅部なのに、運動神経抜群。まぁ、一番は顔だな。陸斗は、黒髪でスッとした顔立ち。目がクルンとでかくて、鼻が高い。背は普通だけど、女子が少し見上げる、男子が少し見下ろすぐらい。theイケメンって感じじゃね?普段から無口で窓から外を静かに眺めてるところとか、絶対に主役だろ。」

いや、なにが主役なんだ……。窓の外を眺めると主役なのか?

「貴史は、黒に近い茶髪で、黒縁のダサメガネ。鼻は低いし、日本人感に溢れている。背は高い方で、後ろから……、6番目?だろ。普段からうるさくて………………、うるさくて……………………」

なんだよ、なんで止まった?

「うるさくて、何なんだ?」


「あと、特徴が思いつかねぇ……」

「………………」

………………

「あのぉ、成瀬くんはいますかぁ?」

ん?

「!! ん?成瀬くんならいるよ?君、隣の片瀬さんだよね?噂に聞くとおり可愛いねぇー!!俺ね、成瀬の親友の、鈴木って言うんだー。知ってる?」

やめとけ、絶対に後悔するぞ。

「う、あ、あ!し、知ってるよ?鈴木くんでしょ?えーっと、鈴木たけるくん!だっけ?」

あーぁ……。

「……俺、帰る。」

「ぅえ?あ、違った??ごめん!本当にごめんなさいっ!て、あれ?」

「で?なに?僕、目立つの嫌いだから呼び出しとか勘弁して欲しいんだけど。」

「あ、あの!……ごめんなさい。失礼しました。」

振り向いた時には、すでに貴史は帰っていたようだが、亮と僕以外は気付きもしていなかった。