赤だった。

燃える赤は、すべてを焼き尽くし、開かれた口のようにすべてを呑み込む。

どろりとした塊が、僅かに波紋を呼び寄せて流れ出る。滴るそれは、生者の忌み嫌う色をしていて、明確に、けれども実に曖昧なモノとして見せつける。

鮮やかだ、晴れやかだ、艶やかだ。――されど穢らわしい。

見開かれた瞳から流れていた涙さえも彩りを加え、最早生き物ですらなくなった、かつて生きていたモノに、最期の独白を強請る。

浅ましく、愚かな私を見ないで。

願いを、訴えを聞き届ける者は既に亡い。

固まる私に、それは静かに忍び寄る。伸ばされた手は、驚くほど生白く、死者よりも死者らしい。

右手首からとめどなく溢れ出る赤に触れ、緩やかな弧を描きながら振るわれる。その手は音もなく、感触もなく、温度もなく頬に添えられ、三日月が赤く染まった。

「お前の罪だ」

耳元で囁かれるのは、憎いモノの声。

視界が紅に塗り潰されたのを機に、肉塊も、その憎いモノも、私も、笑っていた。