確かにこの人の作品はあまり知られていない。だからこそ同じようにこの人の作品に触れた読者と巡り会うことは少ないかもしれない。

良い作家なのに、そこが少しだけ勿体無い。

カウンターの下からまた出た先生の手には、やはり鹿島 誠の作品があり、分厚さが重なって重たそうに見える。

「篠原さん、これ読んでみます?」

渡された数冊の本は、私の手元のものと合わせて五冊となった。それらからは強めに香る本の香りが、重さを紛らわすようだ。

私この匂い、嫌いじゃないんだよな。

鼻腔を擽る香りに、先程までささくれていた気持ちが和らいでいく。

「さて篠原さん、授業はどうしたんですか?」

彼はカウンターの席へと戻り、顎に手を置き下から覗くようにしてその目を細める。そこにこの本ときて、変な意地悪をされているような気分になる。

「授業、なんてありましたっけ?」

あってないようなものだと、彼も言っていたのを思い出し切り出せば、それもそうですねと返される。なんだか期待外れのその応え。