そんなことで騙されてくれるのであれば、こちらとしては万々歳なのだが。それに知ったところで何となるという話で、もう終わった話でもある。

それよりも気になるのはちらほらと垣間見える執着だ。

しかしそれもまた私にとっては関係のないことだ。私は解放されたのを機に無言で立ち上がり、「私、もう用済みでしょう」、踵を返して歩き出す。

「篠原さん!」

それを引き止めたのは意外というかなんというか、倖だった。

振り向くと、どこへ行く気だと問いかける目とかち合う。答えようによっては行かせない、と言外に語る瞳に嫌気がさす。脅し、とは呼べない可愛いものだ。

「……私の応えに、誰が得をするの?」

するはずがないのだ。ここにいる、誰も。

それは無意味な質問であり、私をここへ縫い付けるための口実に過ぎないのだから。

ならば、律儀に留まる必要は皆無だ。無駄なことをあまりしたいとは思えない性格上、これはどうしょうもないことだ。

「話は終わっていない」

見かねた修人の低い声が威嚇を伴って地を這う。