ほんの数分前に聞いた名前を思い出しつつ、それを舌に乗せて目を合わせる。

「深景先生」

一瞬だけ細められた瞳。けれど彼は笑みを絶やすことなく返事をして私の言葉を待つ。

「さっきから気になってたんですけど」

気になっていたというか、気にならない方が土台無理な話だ。

幾つもの不躾な視線に晒され、囁く声が耳に届いてくる。そこには好奇心が寄せられていて、非常に鬱陶しい。

一呼吸置き、動揺など一切していないかのように振る舞う。

「どうしてホームルームの時間にこんなに生徒が彷徨いているんですか」

廊下や、窓の撤去された窓枠から覗く視線。今は本来であればホームルームの時間であり、ちらりと見えた各教室内ではそれぞれの担任と思しき先生が教壇に立っていた。

私と先生が通ると、それまでしていたことを中断してまで見てくる。一体何がそんなに珍しいのか、彼等の目にはどこか奇異の︎眼差しも混じっている。