彼氏なんて、できるわけないじゃないか。

誰に愚痴るわけでもなく、心の中でそっと落とした言葉。溶け込んで、染み渡る頃に浮かぶのは炎に揺れる中、一人だけあの人に向かった背中。

行かないで、と叫べればきっとあの儚い笑みを崩すことも、手を伸ばすことだってできたのかもしれない。振り下ろされた刀の先に付いた真っ赤な花弁は、彼と一体となって大輪を咲かす。

「仕方ないじゃん、あいつは……」

生きているのか、それすらも解らない。

誰よりも私に近かったのに。私は赤い着物を染める花弁に、身を投げるしかなかったのか。

記憶に沈む意識を強引に引っ張り上げたのは、強く掴まれた肩の痛み。眉間に皺が寄るも、その手は一切の弛みはなく訊ねる。

「誰だ」

短く落とされたのはそんな脅迫じみたもの。

余計なことを口走ったと、今更後悔する。

しかし、肩を掴む手をやんわりと払い除け、優しく置かれた温かい手が助け舟を出してくれる。見上げれば先生がいて、彼はきっと理解しているのだろう。