疑問符に浮かべる私の裾を引き、いつの間にか背後に回っていた蒼が耳を寄せろとばかりに肩を叩く。傾けた耳に吹きかかる吐息に笑い出しそうになるが、一瞬だけの感覚に蒼の声に集中する。

声はいつかの色気を含んだではなく、どこまでも純粋なもので。

「なっちゃんのこと、けっこー気に入ってるんだよ。修くんは」

なんだかこっちが悪いみたいな言い方だが、それでも先生の送り出そうとする雰囲気にも押されてしまう。

小さく溜息混じりに呟き、俯いてしまうのはどうしょうもない真実が自身に突き刺さるから。

「いないよ、彼氏なんて」

それにけらけら笑う倖には先生と同じ目にしてやろうかと思ったが、謝るので許してやる。とは言ったが、謝るその肩が震えてるのを私は知っている。

覚えていろよ、と心の中で倖に毒を吐いて今は見逃してやる。

「いいんだよ、なっちゃん。なっちゃんに彼氏なんていたらそりゃあもうねぇ?」

ちらりと蒼は修人に視線を送るが、修人は静かに目を逸らして逃れる。

蒼は怖いもの知らずなんだと、漠然と思ったことは内緒だ。