頭の中で何か策はないかと巡らせ、口を吐いて出たのはあまりにも見え透いた嘘。

「今日は、彼氏と会わなくちゃいけないから」

咄嗟の思いつきとはいえ、自分で言って自分が一番傷付く嘘に、泣きたくなってくる。もちろん彼氏なんて産まれてこの方できたこともなく、作る気も必要性すら感じない。

傷付けたくないものを、わざわざ作る必要なんてないのだから。

けれど私の嘘に彼等は目を丸くしている。

「なっちゃん、彼氏いたの」

「え? いなああいるよ」

危うく口を滑らせそうになったが、なんとか誤魔化せたと思いながら感じる視線に目を移す。見定めるように細められた倖の視線が刺さって痛い。

確かに私だって嘘は吐きたくない。だけど変なところに連れて行かれるよりマシだって思いたい。

そんな目で見ないで欲しい。

「誰だ……それ」

低く、唸り声のように地を這うそれ。

赤い瞳が静かに見下ろし、明らかに怒気を孕む口調。

「関係ないでしょう」

たった一言突き返せば、彼は一度目を伏せるが鋭い視線は何ら変わりない。苛立ちを醸し出すのは何に対してなのか。