彼等がそんなものだというのであれば、従う他ないだろう。

納得できない部分もありつつも、絡む蒼を退かすのを諦めると、唐突な別の疑問が浮上する。

「で、なんで泣いてたの?」

見上げてくる蒼の瞳には純粋な疑問しかなく、純粋であればこそつつかれたくないものもある。

泣いていた、泣いていたのだろう。

頭の中は混乱でぐちゃぐちゃに掻き回され、何よりもちらつくあれにどうすることも出来なかったのだ。目を覆ってしまうことができたなら良いのだろうけれど。

「なんとなく」

先生の顔が罪悪感に歪みそうになるのを、私は首を振って止めれば、彼は眉間に皺を寄せたままに不器用に笑う。気に病む必要なんてないのに、優しい人なんだろう。

妙な沈黙が下りつつも、蒼はそれ以上は訊いても応えないと察したのか、曖昧な相槌を打つだけだった。

「それでは、俺はそろそろ戻りますね」

沈黙を濁すかのように立ち上がった先生は、そう言って保健室から出て行こうとする。けれど何を思ったのか、扉に手をかけくるりと振り返った。

「篠原さん、良い奴等ですよ」

なんて、悪戯に微笑んで出て行った。

誰とは言わず、それでも私に伝わるには充分だった。