「そろそろですかね」

その顔にはいつもの飄々とした微笑みが戻っていて、何故か安心にも似た気持ちになってしまう。

「俺はもう何も言いませんし、言えないでしょう。彼等がここへ入った時から先生と生徒に戻ります。けれど、俺は貴女のお力になりたいと、いつでも思っていますよ」

深々と下げられた頭は、かつての仲間で家族だった人。もう到底戻れないものだと、赦されることではないと逃げた私を、彼は支えようとしてくれる。

妙なところで謙虚なのがまた狡くて、彼の優しさに頷くしかできなくなってしまった。

「ありがとう」

私がそう返すと上げられた彼はもう“先生”であり、私もまた“生徒”に戻る。

先生が頭をあげると同時に開かれた扉から入ってくる蒼は、唇を尖らせ文句を言いながらいじけた素振りを見せる。

「おーそーいっ! 僕もう待てないよ!!」

駆け寄ってくる蒼が私の腕を取り、じゃれついてくるのにはどうも子犬のようにしか見えない。