「……私は、一人でいい。誰かに縋ればきっと忘れちゃうの、してきたことを。それだけはしたくない」

もう組なんて縛り、彼にはない。これはけじめではない。認めないためのもの。

「あの日を知っているなら、どうか他人のままでいてください。先生が確かに組にいたのかもしれない、私達は家族だった。でももう、燃えてしまったから」

約束も、所詮は口約束。

彼がこれ以上縛られる必要も、それに人生を割く必要もないのだから。

関わらないで、と懇願を込めて見上げれば、痣のある口元が微かに震える。それは今までの飄々とした面立ちではなく、組の者の顔をしていた。

「先生はもう、組の者ではないのでしょう?」

彼はきっと去ったのだ。

あの燃え盛る屋敷から、私も逃げたように。

黒の瞳に映された私は揺れていて、滑稽にも泣きそうな顔をしていた。

先生は何か言いたそうにしていたが、それを呑み込み、静かな問いだけを返した。

「……お嬢は、このことを修人達に?」

垂らした髪がもしも金色であったなら、そうしていたかもしれない。視線の先にあるのは穢い金ではない、造りものの茶色。