握った右腕に走る鈍い痛みが、渦へと落ちようとする思考を止め、歯軋りを鳴らして睨み上げる。

どちらだなんて、そんな馬鹿げた質問は意味を成さない。“お嬢”という愛称をする人達を、私はあの場所しか知らない。

名前をくれた、私を拾ってくれた温かい場所。

「俺は“篠原組”の構成員、でした」

微笑みを消し、敬いの眼差しが降り注ぐ。

予感はしていたのだ。初めて会った感じはなく、彼にはここに来た当初から馴染みを感じた。

「先生は、私のことを」

下手な動揺もせずに、確認を重ねる。

言われて見れば見覚えもある気がする。けれど、私にはあの時のショックで薄れている部分もあるのだ。思い出したくもない過去は炎と血で赤く染め上げられ、赤い着物が螺旋を描く。

知っているのかという問いに、先生は深い頷きとともに目を伏せる。過去に浸るのか、それとも、痛ましさに目を背けようとするのか。

「あの日、あの時、あの事も」

悲しみと悼みの入り混じる悲痛な声。

それは確かに充分過ぎるほどの証明だった。