ヒューを乗せ、走り出すジープ。

乗っていたのは、アジア系の中年男性だった。

ヒューよりも歳上だ。

恰幅がよく、一見すると温厚そうに見えるこの男が、東南アジアのタイ、ミャンマー、ラオスの3国がメコン川で接する山岳地帯で、ミャンマー東部シャン州に属する世界最大の麻薬密造地帯『黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)』を牛耳る麻薬王だと聞いたらどう思うだろうか。

ミャンマーのシャン州では幾つかの軍閥が麻薬生産のみならず覚醒剤の製造も行い、更には合法ビジネスを行っている。

この男は、その中でも最大規模の軍閥のボスだった。

名前はラン・サ。

タイ・ミャンマー国境の少数民族シャン族解放組織である軍閥の指導者。

資金集めとして、民族、国境紛争の絶えなかったタイ北部に定住、少数民族解放運動を建前に武装を続け、アヘン栽培で資金集めをしている。

その為に彼の軍閥は『ドラッグアーミー』と呼ばれる。