ほらほら、そんな素敵ポーズを取るから、全く、要らぬことを!
ジロッと社長を睨むと社長は苦笑いを浮かべるが、それこそ要らぬ心配だった。

次に彼女が取った行動は、まさかの有り得ない行動だった。
彼女は走り寄ると、抱き付いた……。
他でもない、この私に!

「お姉様、コック姿がとっても良くお似合いだわ。とってもお美しいわ!」

ベッタリ抱き付き、私の胸に顔を埋めスリスリする。
なっ何だ、この状況!
もしかして、このお嬢様はユニフォーム・フェチ?

「こっこれ、彩萌、止めなさい!」

鳳凰社長が慌てて彩萌お嬢様をヒッペ剥がす。

殿宮社長は思わぬ展開についていけなかったようだ。
一歩遅れて、ようやく我を取り戻すと私を引き寄せギュッと抱き締める。

「駄目です。これは私のですから」

オイオイ、どさくさに紛れて何を言っているのだ、と思いつつも、この場で押し退けるのは婚約者として有り得ないだろう、と黙ってなすがままになっていた。

「だって、お父様、あまりにこのお姉様が素敵で」
「利一、彩萌を連れて出て行きなさい」

総帥の言葉に、鳳凰社長は「了解しました」と頭を下げると、駄々をこね大暴れするお嬢様を抱え社長室から出て行った。

バタンとドアが閉まると総帥はグッタリとソファーに腰を下ろす。

「君たちも座りなさい」

弱々しく声を掛ける総帥の言葉に従い向かいの席に座ると、タイミングよく三宅秘書がトレーにコーヒーを乗せ現れた。

そして、セッティングを終えると、場の雰囲気を察してかスッと居なくなる。
本当にできた秘書だ。