「ああ、突然申し訳ございません。彼女はSクラス担当の姫宮姫乃と言います」

Sクラスと聞いて合点がいったのか、三井秘書は軽く頷く。

「なるほど、そうでしたか。姫宮さん、今度のパーティーどうぞよろしくお願いします」

頭を下げられるが、何の事やらだ。

「あっ、それと」

社長は受付嬢の時と同じように、甘い笑みを浮かべると「彼女、私の婚約者でもあります」と言った。

「あの、初めまして姫宮姫乃と申します。よろしくお願いします」

二人の秘書は数秒唖然と固まったがやっぱりプロだ。
三井秘書はすぐに、「嗚呼、さようでしたか、こちらこそよろしくお願いします」と体制を立て直し、社長室に案内する。

トントンとノックをしドアを開け「殿宮様がいらっしゃいました」と告げる。中から「お通ししろ」と重厚な声が応える。

社長は私の背に置いた手をソッと押し、三井秘書の脇を抜け、中へと歩く。

「待っていたぞ、殿宮君」

声を掛けたのは白髪の獅子。彼が総帥、鳳凰宗利だろう。
温厚そうに見えるが、眼の鋭さは、触れれば血を見るというほど恐ろし気だ。

「久し振りだね、殿宮君」
「はい、ご無沙汰しております。鳳凰社長」

「お通ししろ」の声だ。フーン、この人が現社長か。
生まれつきのエリートと云ったところだろうか、一分の隙もない。

それから誰だろう……場違いのように見える少女が一人ソファに座っていた。
見るからにお嬢様という風体だ。
もしかしたら、彼女、総帥の曾孫?

先程の三井秘書の表情は、なるほど彼女がいたからか、と理解する。
でも、どうして今日ここに居るのだろう?

「おや? そちらは?」

彼女に目を向けていると、いつの間にか私も見られていたようだ。

「はい。姫宮姫乃と言います。Sクラスを担当する、私の婚約者です」
「よろしくお願いします」

慌てて頭を下げ、上げると……やっぱり。
三人は固まっていた。