そして、その予感は的中した。

一階のカフェQで真梨香様とランチを終え、着替えを済ませ、更衣室を出たところで後ろからムンズと肩を掴まれ、その場で一旦停止する。

だっ誰だ!
真梨香様は肩を掴む輩を一瞥すると、無情にも「お先に」と行ってしまう。

「姫宮姫乃、ちょっと顔を貸せ」

おや、その声は社長、と振り向きギョッとする。
何だ、どうした? 社長の顔は悲壮で蒼白だった。

「社長、顔が変です」
「本当に失礼な奴だ。だが、今日は許そう。だから付いてきてくれ」
「何処にですか? お腹いっぱいなのでこれ以上は頂けません」

お腹をポンと叩くが、「来れば分かる」と社長は私の返事も聞かず、手首を握ると歩き出す。

「ちょ、ちょっと社長! 午後の準備が」

ほらほら、とコック姿を懸命にアピールする。

「大丈夫だ、それなら主任に頼んでおいた。あっ、悪い、そのままでは寒いか」

社長は着ていたコートを脱ぎ、私にかける。
こういう行為は紳士なんだけど、と呆れながらも段取りの良さを感心している間に車に押し込まれる。

「今からお前は俺の婚約者だ」
「ハイ?」

車が発車し初めて信号で止まると、ずっと黙っていた社長が口を開くが、出てきた言葉は、何だそりゃ! だった。

「お前、俺に言い寄る奴等をことごとく追い払ったな」

「社長、お言葉ですがあれは私の意志ではございません。全て、偶然が成し得た結果です」

「偶然でも何でもいい。結果が全てだ」

青になり車がゆっくり走り出す。

「で、この先に何が待ち受けているのですか?」

あまりに社長の態度が必死なので、取り敢えず話を聞くことにする。