「……私は三十八回。毎回ご縁がないのね、と諦め、また足を運んでしまうの。ほとんど病気だわ」

梨子はブツブツ呟くと、哀し気に緑茶をすする。

「あのぉ、そんなにあそこの限定ランチはレアなのですか?」
「プレミアものね」

いとも簡単に口にした私は、今一彼女たちの言葉に真実味が持てない。

「だから、噂が噂を呼んでさらに口に入らないの」

要子は羊羹を口に入れ、親の仇のように口を動かしゴクンと飲み込む。

「それを一回で! 貴女、よほど前世で徳を積んだのね」
「それか、神のご加護を一身に受けているとか」
「まっ、どちらにしてもラッキーガール、ハッピーガールだわ」
「ああ、それを言うなら、私じゃなく、社長です」

二人が怪訝な顔をする。

「どうしてそこに社長が出てくるの?」
「だって、連れて行ってくれたのは社長ですから」

二人は顔を見合わせ、了得したとばかり同時に頷く。

「なら、納得だわ。徳もご加護も有り余っているわね」

要子の言葉に梨子のみならず、私も頷く。

「でも、梨子さんも著名な作家さんですよね。離婚から後、とても恵まれた人生を歩まれているのでは?」

その問いに答えたのは本人ではなく要子だった。

「姫よ、良くお聞き。彼女がここに住む訳を」