フワァと欠伸を繰り返し、運転席を見る。

「社長、楽しかったですね。夜遊び」

たった二時間ちょっとだったが、十分満足した。
それに、と膝に抱えるモグタンの縫いぐるみを見る。
お土産に、と社長が買ってくれたのだ。

「ああ、子供のな。それにしても、鬱陶しい。そいつ後部席に置け」

そこ、強調しなくてもいいじゃないですか!
それに、これにしろ、と言ったのは社長じゃないですか。
幼稚園児ぐらいの人形を撫でながらムッとする。

「ラブリーなこの子を独りぼっちにできません」

全く! 気を許すと突如牙を剥く。
まるで野生の狼ですね、と心の中で、ベーと舌を出す。

「ところで、本当に大丈夫か?」

社長の言葉に、はてなマークを浮かび、そうだった、とお千代さんを思い出す。
思い出す? 忘れていた?
胸にカッと熱いものが湧き上がり、喉が詰まり、息苦しさを覚える。
大切な人を忘れるなんて……やっぱり私は血も涙もない人間だ。

「ん? どうした大人しいな。疲れたのか」

運転席から社長がチラッとこちらを見る。

「……あっ、大丈夫です」

から笑いを浮かべ、流れる景色をボンヤリ見つめる。
そうだ、私は疲れているのだ、帰ったらすぐに寝よう!

「社長、今日はありがとうございました。ちゃっちゃと帰って寝ます」
「一緒に寝てやろうか」
「ご遠慮申し上げます。それに、独りじゃありません。モグタンがいます」

即答し、あそこで社長が寝れるわけない。
天蓋の付いた王様のベッドを想像し、フルフルと頭を振る。