「何度も言いますが社長のとこ億ションじゃないですか。そんなところ嫌です。借りません、というより借りられません」

そう、社長は何度断っても転居を促す。
それも社長が税金対策に一棟買いしたマンションに! だ。

「お前の経済状態なら分かっている。誰が給料を支払っていると思っているんだ」

そりゃ、社長様ですよ。分かっているなら、無茶振りしないで下さい! とありったけの異論を込めた眼で訴えるが、無視される。

「だから、大幅にディスカウントしてやると言っているではないか」
「そんなお情けいりません!」
「情けではない。愛情だ」

また、おかしなことを言い出した。社員愛とでも言いたいのか?

「社長、どうでもいいですが、このまま言い合いを続けるなら、私、もう夜遊びいいです。帰ります」

これみよがしに大きな溜息を付き、背中を向けると、社長が肩を掴む。

「待て! 分かった。この話は又にしよう」

止めるんじゃなく、又なのか……やれやれ諦めの悪い人だ。