「……」

何故、固まる?

「あらっ、あの車じゃない。じゃあ、私はこのままちょっとお買い物に出てくるわね。楽しい夜を!」

梨子の車で夢子のところから戻ってくるとメープル荘の前に、辺りの情景と全く不釣り合いなランボルギーニが停まっていた。

コンコンと運転席の窓を叩き合図を送ると、社長が車から出てきて、今に至るというわけだ。

微動だにしない社長を見上げながら、思わずツンツンと突きたくなったが、我慢する。

「お前、化けたな」

やっと口を開いたと思えば、まるで人を化け物のように……。
でも、仰せの通りでございます。自分でもビックリでございます。

「ゴッドハンド様の魔法です。洋服とアクセサリーは借り物です」

業務報告のようにキビキビ答えると、社長は何故かチッと舌打ちをする。
そして、「すまない」と謝る。

「俺としたことが、服のことまで頭が回らなかった」

意味不明の謝罪に気持ち悪さを覚える。

「どうして、社長が謝るのですか?」
「誘っておきながら、中途半端なことをしたからだ」

共に日本人だが、どうも社長とは住む世界が違うようだ。
時々、こんな風に、意思の疎通ができなくなる。

「これからは事前の準備を怠ることなく、お前を誘うことにする」

事前の準備とは如何なる? それほどまでして誘って頂かなくても結構です、と言えたらどんなにスッキリすることか……できないので、誤魔化すように曖昧に笑っておく。