「お前、どうしたんだ!」
「何がですか!」
今は社長の戯言など聞きたくないが、一応、相手は社長だ。
取り敢えず返事をする。
「顔だよ。妙にスッキリとピカピカしているぞ」
嗚呼、と昨日のマッサージを思い出す。
「その割に表情が暗いがな」と付け足す。
一言多い! とキッと睨む。
「マッサージしてもらったんです。昨夜」
「それは男か!」
社長の顔がグッと近付く。
近い、近い! 間髪入れず「女です」と答える。
「ならいい」と何がいいのか分からないが、社長はピラピラ手を振り行きかけ、足を止める。
「姫宮姫乃、ランチ付き合え。学ばせてやる」
「今日は勉強する気がおきません」
社長はこんな風に、時々、私を食事に同行させる。
「ちゃんとしたものを食べなければ美味いものは作れない。我が社のための勉強だと思い奢られておけ」
初めて食事に同行した時、社長が言った言葉だ。
あの言葉は妙に説得力があった。
だからだろう、施しの大嫌いな私なのに素直に財布を引っ込めたのは。
だが、本当のところは大いに助かった。
あの時入った店は、あの水佐和裕樹の店、レストランMの本店だったからだ。
たぶん、財布を空にしても支払える額ではなかっただろう。
そりゃあ私だって、日々の学びは大切だと思っている。
でも、実費で、社長お勧めの店を食べ歩るいたら、すぐに破産だ。
だから、社長のお誘いは有り難い。
けど、今日はお千代さんのことが気掛かりで、食欲がない。
なのに……この人も、強引な人だ。
「バカか! どんな時もキチンと食べないと、力も出なければ、良いアイディアも浮かばない。行くぞ! これは社長命令だ」
暴君だ! 権威を笠に言いたい放題、やりたい放題だ!
私は社長の背にイーだと歯を剥く。


