翌日は深秋を思わす寒い朝となった。
分厚いグレーの雲に覆われた空から今にも雨が降り出しそうだ。
空を見上げ深い溜息を付く。
何故なら、お千代さんが部屋から出て来ないのだ。
「お千代さん、連絡も入れず、本当にごめんなさい。許して」
ピシャリと閉まった襖のこちらからお千代さんに向かって謝るが、やっぱり返事はない。
仕方なく「行ってきます」と声を掛け、トボトボ仕事に出掛ける。
ああ、ムチャクチャ怒っている。そりゃそうだ。連絡も入れず、深夜の帰宅だ。怒るのも当たり前だ。
お千代さんはへそを曲げると一週間ぐらい口をきいてくれない。嗚呼、どうしよう。
思い切り凹みながら会社に着くが、今日は仕事したくないなぁ、と溜息交じりに更衣室に向かう。
のろのろ黒のパンツと白のコックコートに着替え、ロング丈のソムリエエプロンを手に、更衣室を出る。
嗚呼、本当に最悪!
「姫宮姫乃、朝から何しけた面をしているんだ」
さらに苦虫を潰したような顔をしていると、社長が顔を覗き込み、意外な顔をした。


