離婚を言い出したのも彼の方らしい。
プライドを重んじるあまり……にしても、億万長者を手放すとは、石頭で猪突猛進的な、ある意味レアなほど実直な堅物なのかもしれない。
要子は「そんな了見の狭い旦那とは別れて正解だわ」と梨子の肩を叩く。
「そうかもしれなけど……彼との生活があったから今の私があるの、たった二年の夫婦生活だったけど」
それまでの梨子は流されるように生きてきたらしい。
やりたいことも見つからず、現実逃避のように元旦那さんと結婚したようだ。
「元旦那さんとの出会いは、梨子ちゃんが児童文学作家になるためのきっかけに過ぎないってことよ。本当の運命の人は別にいるのよ」
夢子はココアの残りを飲み干し、意味ありげにニシャリと笑う。
確か、梨梨子って、十八歳で文壇デビューした筈では?
その時既に離婚していたということは……なるほど幼な妻かぁ、と何がなるほどか分からないが、妙に納得すると、柿とリンゴと豆乳のジュースを飲む。
おぉ! これはなかなか美味。今度お千代さんにも作ってあげよう!


