「あら、それ、お隣さんの?」
梨子が要子の前に置かれた名刺に気付き、手に取る。
慌てて梨子の前にも名刺を置く。
「姫宮姫乃。ウソッ、シェフ!」
途端にキラキラと目を輝かせる梨子。
そう言えば紹介がまだだったわね、と要子が梨子を掌で指す。
「姫、こちら、出口梨子さん。特技はやけ食いです」
「まっ、失礼ね。食べることが好きなだけよ。姫、生憎、名刺は持ち合わせていないの。ごめんね。バツイチの作家で~す」
梨子はペロッと舌を出し、エヘヘと笑う。
こんなに可愛いのにバツイチって……。
「気になる? 私の過去」
梨子が悪戯っぽく笑う。
ウッ、また、表情を読まれたの?
申し訳なさげに下を向くと梨子がクスクス笑う。
「梨梨子って名前知っているかなぁ?」
梨梨子と言えば、『空飛ぶボコボコ号シリーズ』や『メープル荘の妖怪シリーズ』を書いた、かの有名な児童文学作家だ。
あれ? メープル荘。梨子。作家。
そこで、思いっ切り驚愕する。
「もしかして……梨梨子ぉぉぉ!」
「です。よろしくね。姫」
どうしてそんな著名人がこんなところに住んでいるの?
只々、唖然とするばかりだ。


