「コタツって、人間を堕落させるわよね」
ハーッ、極楽極楽、と蕩けそうな顔をする。
「そうやっていると、二十八歳には見えないわ。まるでオババ」
さっきの仕返しとばかり、梨子が言う。
そうか、彼女は私より二歳上だったのか。
美人だし、会うたびキリリとスーツを着こなしているし、もう少し上だと思っていた。
「でも、まぁ、その気持ちは分かる。本当、一度入ると出たくなくなるもん」
「だから、私はコタツを置かない主義」
梨子は信じられない、というように訊ねる。
「ウソッ! コタツでミカンとか、コタツでアイスクリームっていう至極の時間を放棄しても?」
要子は顔を歪め、「そう、放棄してでも」とまるで苦渋の決断をするみたいに答える。
そんな大層なものなのかコタツって?
二人のやり取りをボー然と見つめつつ、今一理解に苦しむが、と私もおずおず足を入れる。
ほのかな温かさが足元を包み、全身に染みていく。
ホーッ、極楽極楽、と要子と同じ台詞が出る。
「フ~ン、何、おコタに苦い思い出があるの?」
梨子の言葉に「ウッ」と言葉を詰まらせ、要子は「変なとこで勘がいいのね」と睨む。
どうやら私以外の住人はとても仲がいいらしい。
二人のやり取りを聞いていた私はそんなことを思う。


