今一、訳の分からぬ状況に、ここはやっぱり怒るところだろうか、と思案していると、いきなり手首を掴まれる。

「ちょっといらっしゃい」

そして、有無も言わぬうち、引きずられるように彼女の部屋に連れ込まれる。
あらっ、可愛いピンクのお部屋、と呑気に思っている場合ではなかった。

「あの、私、物凄く疲れています。物凄く眠いです。今すぐ寝たいのですが」

激しく抵抗するものの、百六十三センチの私より小さいその細い体のどこにそんな力があるのだろう? と思うぐらい力強く引っ張られ寝室と思しき部屋に引きずり込まれる。

「ご用があるなら、今度にしてもらえないでしょうか」
「駄目! ブス顔を一日伸ばしに放置したら、本物のブス子になる!」

問答無用、とばかり私を鏡台の前に座らせると、「ちょっと待っていて」と部屋を出て行く。その後、水の流れる音がし、ガタン、チン、バタンと擬音が続く。

少しして、ホカホカと湯気を上げる濡れタオルを手に持ち夢子が戻って来た。
私の頭にターバンを巻くとタオルで顔を拭き、カットクロスを掛ける。

「心配しないで、悪いようにしないから」

遅くなったらお千代さんが心配する、と思いつつ、夢子が顔のマッサージを始める頃にはその気持ちよさに、なすがままになっていた。