「あらっ、お帰りなさい。お仕事? 遅くまでご苦労様」

寝惚け眼で前を見ると、メープル荘の前にキラキラ笑顔の103号室さんがゴミ袋片手に立っていた。

「ただいまです。ありがとうございます。はい、仕事帰りです」

103号室さんのフルネームは愛染夢子といい、私の部屋の真下の住人で、私より二歳若い二十四歳。

初めて会った日に、「夢子でいい」と呼び捨てを強要され、ペラペラと個人情報を宣った人懐っこい人だ。

仕事は美容師。だから、物凄く美に敏感だ。当然、自分磨きにも余念がない。
自分の店を持つことが夢だそうだ。だから、外観に反してかなりの倹約家だ。

夢子はゴミ箱にゴミ袋を突っ込むと、パンパンと手を払い、私に近寄り、ジッと顔を見る。

そして、開口一番「ダメね!」と言った。
ハイ? 空耳? 突然のダメ出しに目を点にする。

「全然ダメ! お肌はボロボロ、髪はバサバサ。いつからお手入れしていないの!」

そして、激しくなじられる。

午後十一時を目前に、クタクタでヨロヨロの私に向かって、貴女は何を言う!
それに、同じアパートに住むというだけで、喧嘩するほど仲良くないのでは?