社長はずんずん先へ進み、廊下の突き当りにあるドアをバタンと開ける。
「シスター、俺、コイツと結婚するから牧師様を呼んで」
「あらあら、サンタさんの結婚式?」
丸眼鏡をかけた優しい眼差しのシスターが微笑む。
「いらしゃい。恭吾君。いつもありがとう」
シスターは視線を社長から私に向け、もう一度社長に向けると訊ねる。
「この可愛い方はどなたかしら?」
「ああ、すみません。彼女は姫宮姫乃、妻になる女性です」
アッとシスターの顔が驚きの表情となる。
「もしかしたら、彼女は如月千代様とご一緒にいらしていた」
「そうです。あの子です」
「まぁ」とシスターは口元を押えると瞳を潤ませ、「恭吾君、とうとう願いが叶ったのね」と微笑む。
「ご無沙汰しております。お嬢様。お元気そうで何よりです」
「こちらはシスター理恵子。俺の母親代わりの人だ」
「ごきげんよう。姫宮姫乃です。私のことをご存じなのでしょうか?」
シスター理恵子はハンカチで目元を拭うと、慈悲深い微笑を携えたまま懐かしそうに私を見る。
「エエ、千代様が二回お連れ下さいました」
お嫁さんを見た時と天使を見た時だ。記憶は正しかった。
「姫乃お嬢様が恭吾君とバイバイしたくない、お嫁さんになると言って大泣きして。そうそう、その時、お二人は許婚になられたのです。本当に恭吾君も姫乃お嬢様も可愛くて。その様子を千代様と微笑ましく拝見しておりました」
当時のことを思い出し、コロコロとシスターは笑う。
なっ何という驚くべき事実!
「……ということは求婚したのは私?」
「へー、そうだったんだ。俺も忘れていた」
社長がニヤリと笑う。
何てこと! 私って今よりズット発展家さんだったのね。
「じゃあ、俺がお前の求婚に応えたから、めでたしめでたし。ハッピーエンドというわけだ」
社長はこれにて一件落着、とばかり妖しくほくそ笑む。
私は当時の自分を叱り飛ばし、ガクリと項垂れる。


