「トイレに起きただけだ。もう、寝る」
「社長、寝る前に着替えましょう。水分取りましょう」
社長を布団まで連れて行き座らせるとビッグTシャツを渡す。
「これなら着られると思うのですが」
「ありがとう」と言い、社長は「ん」と顎を上げる。
これは……もしかしたら脱がせ、と言っているのだろうか?
仕方なくワイシャツのボタンを外す。
「なかなかいいな。お前に脱がしてもらうのは」
カッと顔が熱くなる。動揺を悟られないように平然とした態度で言う。
「ボタンを外してあげるだけです。着替えは自分でして下さい」
「つれないねぇ」
何となくだが……元気になっているような。
社長はワイシャツを脱ぎ……。
こらこら、私の目の前で裸になるな!
凝視する私を挑発するように社長がニヤリと笑う。
「このままお前の肌で温めてもらおうか」
「なっ何を、びょう病人が、寝なさい! 寝てしまいなさい!」
グッと身を引き、ビュンと立ち上がりキッチンに逃げ込む。
背中で社長の大笑いが聞こえる。
「全く! ちょっと良くなると、もう!」
それにしても凄い回復力だ。
常日頃、体を鍛えているからだろう、とさっき見た逞しい胸板を思い出し、ワワワと手でそれを吹き飛ばす。
社長のせいで私もドンドン変態さんになっていく。
ほんとうにもう、とチラッと覗くと社長は大人しく布団の中に潜り込んでいた。
「社長、後はそのスポーツドリンクを飲んで下さい」
「力が入らないから蓋が開けられない」
そりゃそうか、とまた社長の枕元に座り、蓋を開ける。
「恋人同士なら、口移しで飲ませてくれる筈だが……」
何をふざけたことを!
「社長の世界の……」
「恋人同士は、だろ。分かった分かった、自分で飲む。でも、そのうち……」
黒い笑いを浮かべ、受け取ったペットボトルに口を付ける。
今、悪寒が走ったが……うつったのだろうか?


