「それを寸でのところで助けてくれたのが次期社長である冨波圭吾。事情が事情だったし、両親の仕事ぶりを知っていたから」
そんな深い事情があったのか……。
「その代わり、大学卒業間近の私に、冨波に就職して借金を返済しろと言ってきたの。本当はスタイリストとして他の会社に内定を貰っていたんだけどね」
何だ、その横暴な交換条件は! 無性に腹が立つ。
嗚呼、だからメープル荘に住んでいたのか、謎は解けた。
「まっ、彼に体を要求されなかっただけマシよ。彼、名うての遊び人だから」
怒りは沸点まで上がった。
「要子さん、そんな不条理なことに屈したんですか!」
「仕方がないのよ。両親を助けてくれた上、横領のお金も肩代わりしてくれたんだから。それに……」
要子が悲しそうに呟く。
「……彼の元を去りたくなかったから」
ハッと要子を見る。
「もしかしたら……その卑劣な冨波圭吾って人を好きになったんですか」
フッと要子は自嘲気味に笑う。
「今、バカだと思ったでしょう。女たらしでふざけた奴を好きになるなんて。自分でも思っているもの」
要子は大きく切ったパンケーキを無理矢理口に突っ込む。
何て辛い恋だ。
「バカだなんて思いません。ほら、あの時、夢子さんとミズ・ミミの件で、いろんな愛の形があるんだと知りましたから」
「本当、姫は可愛いわね」
要子はコクリと紅茶を飲む。
「でも、不毛の恋ももうすぐ終わり! 来年、完済するの。もう自由の身よ」
「あっ、おめでとうございます」
フフッと笑い「ありがとう」と要子は礼を述べる。


