だが、「負けるものか!」と私は社長の変態発言に屈せずランチを完食し、午後の仕事を立派にやり遂げた。
よくやった! と自分で自分を褒め称え、達成感を感じながら岐路に着くと、珍しく駅前で要子と出会う。
「元気になったみたいね」
「はい。要子さんはいつになくお疲れのようですね。クマできていますよ」
要子は頬に手を当て苦笑する。
「夢子のところで美容ドリンクを! って言いたいところだけど、ミミが入り浸っていて……いくら甘党の私でも甘い空間にお邪魔もできず……姫、ちょっと時間ある?」
要子は親指を立て、クイクイっと指差ししたのは、要子には似つかわしくない可愛いパンケーキの店。
「今、無性に甘い物が食べたい気分なの」
『プリベリーベリー』は全国的にチェーン展開しているパンケーキの有名店で、発祥は山梨県の商工会女性部だ。
雑誌の『熟女パワー炸裂!』という見出しを思い出す。
その雑誌を見た社長が、社の研修旅行先をここに決め、女性部の熟女様たちと楽しく情報交換したのは去年のことだ。
それ以来、私もこの店のファンだ。
「いいですよ。ここのパンケーキ美味しいですよね」
「そうなのよ! 私、週三はここに立ち寄るの」
要子がここまでの甘党だと知らなかった私はマジマジ彼女を見つめてしまう。
「そうよね、意外でしょう。お酒は付き合いで飲むけど、実はそれほど好きじゃないの」
チリリ~ンとドアベルを鳴らし、要子がドアを開ける。
ベルに合わせ「いらっしゃいませ」と二つの明るい声が出迎える。


