「社長、ああいうの止めて下さいね」
怒りの収まらない私は、ランチを取りながらも社長を激しく叱責する。
「何故だ。世間一般の恋人同士は普通こんなものだろ」
「社長の生きる世界の恋人同士はそうかもしれませんが、私の生きる世界の恋人同士はもう少し秘めやかです」
社長の瞳がキランと光る。
「秘めやか……なかなかいいな。そうか、そういうのが好みなのか」
社長、その顔、凄くイヤラシ気に見えます。
「なら、そうしよう。今お前も認めたしな、恋人同士と」
アッ! しまった、と顔をしかめ、真っ赤になる。
「口では何だかんだ言いながら、お前は俺のことが好きだから。本当、愛い天邪鬼だ」
社長はニヤニヤ笑いながら、熱い瞳でジッと私の唇を見つめる。
「早く、モグモグしろ。お前の食べる口元を見るのが好きだ。エロくそそる」
ハァ? もうヤダ、私の周りは不思議系か変態さんしかいないのか!
「こんな風に見ているだけで引き寄せられる。個室だったらすぐに襲っているだろうな」
社長は親指を自分の唇に押し付け、腕を伸ばし私の唇にそれを当て、ゆっくりなぞり、また自分の唇に当てチュッとリップ音を立てる。
そして、「今はこれだけで我慢しておく」と魅惑的に色気ダダ漏れのウインクをする。
真梨香様ならきっと萌えるに違いない。
だが、私は……瞬時に灰となった。
この男の魅力は凶器だ。
本気モードの彼と対した相手は必ず昇天するだろう。
私は目を逸らし、「冗談はここまで! さっさと食べましょう。午後も忙しいし」とフォークを皿の上のサイコロステーキに持っていくが、さっきの言葉が蘇り、手が出せない。口に運べない。
こんなのを生殺しというのだろうか……と美味しそうな肉を睨み付け、ゴクンと唾を飲む。


