痛快! 病ンデレラの逆襲


「姫、独りで寂しくなかったか」

社長が首に腕を絡める。

「止めて下さい。包丁を持っているんですよ。刺しますよ」
「つれないことを、愛を語り合った仲なのに」

最近、益々拍車のかかった社長の傍若無人な振る舞い。

「それに、どうせ刺すなら阿部定のように俺に溺れて情事の果てに……」

キャー! と真梨香様が黄色い悲鳴を上げる。

「殿、ようやく姫に相手をしてもらえたのですか! ちょっとこれ邪魔」

真梨香様は包丁を奪い、まな板の上に置く。

「で、早速、美麗と浮気でもしたのですか! いいわぁ、ドッロドロのラブトライアングル。このままいっちゃって下さい」

何処へ行くのだ! おまけに見ていたかのような鋭い発言。
それより社長のあの言葉、あれは夢だったのでは?

「真梨香様、相変わらずのドSだな」

社長、貴方まで『真梨香様』呼びですか。
もしかしたらこの会社で最強なのは真梨香様ではないだろうか……。
恐るべしドS星人。

「俺と姫の仲は誰にも裂けない。ほら、この通り、ラブラブだ」

社長がチュッと頬にキスをする。
真梨香様以外の皆もピンクの悲鳴を上げる。
公衆の面前で! 公衆の面前で!

「社長、何しているんですか!」

怒りで真っ赤になる私を、照れていると都合の良い方に解釈した社長は、「愛い奴め」と頬を撫でる。

真梨香様、包丁を取り上げてくれてありがとう。危うく刑務所送りになるところでした、と心でお礼を言い、社長を睨む。

そんな私たちの横で、真梨香様は恍惚と菩薩のような笑みを浮かべる。

「最高だわ! 危ないわ。狂気とエロの世界だわ」

真梨香様、貴女の方が危ないわ、と私は二人を放置し再び包丁を手に取る。