夢を見た。とても幼い頃の夢だ。

お千代さんに手を引かれ、教会みたいな建物に入って行く。
そこは、美しい花嫁を見たあの場所だ。

一歩中に足を踏み入れた途端、前方両サイドのステンドグラスに目が釘付けになる。

綺麗……それ以外の言葉は浮かばなかった。

陽の光を浴びた色鮮やかな天使たち。
本物の天使たちが、そこに居るみたいだった。

顎を上げ、首を左右に振りそれを見ながら前に進む。

「姫様、上ばかりご覧になっていると、こけますよ」

お千代さんは繋いだ手をクイクイと引っ張る。
それでも私は上を向きステンドグラスを眺めていた。

お千代さんは突き当りのドアを開け進む。
真っ白な壁、長い廊下、左手側の窓からは柔らかな陽が差し込んでいた。
その先にまたドアがあり、お千代さんはそこに入る。

入った途端、私は耳を塞いだ。
そこには大勢の子供たちがいた。私よりもうんと小さな子から大きな子まで。
その子たちが奇声を上げ、大騒ぎしていた。

「お千代さん、恐い!」

私はお千代さんの足にしがみ付く。
兄弟も姉妹もいない私は、こんな風に騒いだことがなかったからだ。

「千代さん、こんにちは」

お千代さんのスカートに顔を埋めていた私の耳に、男の子の声が聞こえた。
恐る恐る顔を上げると一人の男の子が目の前に立っていた。

天使……だと思った。
ステンドグラスから抜け出たような美しい子だった。

それから私たちは少しの間一緒に遊んだ。

お兄ちゃまがいたらこんなだろう、と思うほど天使は優しく小さなジェントルマンだった。

私は天使と別れるのが辛くてズット手を離さず、お千代さんを困らせた。

「姫、大きくなったらきっと迎えに行くから待っていてね。僕も姫が大好きだよ」

天使は私の額にキスをし……そうだ! 思い出した。
約束だと言って、確かリングをくれたんだ。

大きくなった私は、そのことをズット幻か夢だと思っていた。
あのリングは……どこにやったのだろう……。