「ところで、お前は姫宮というのだな」

何を今さら、と思いつつ、突然のお前呼びに眉をひそめながらも「はい」と返事をした。

「そうか、俺は殿宮だ。姫宮と殿宮、姫と殿……」

ブツブツ呟く社長に、何が言いたいのだ、と思いながらも静かに聞いていた。

「よし、宮繋がりで、お前を雇おう。これも何かの縁だ」

宮繋がりって、社長がそんな意味ない理由で採用を決めていいのだろうか?

会社の行く末をちょっぴり案じながらも、雇ってもらえるのならご乱心も好都合だ、と我が身の行く末に光明を得、「ありがとうございます。頑張ります」と頭を下げた。

「で、姫宮姫乃、お前はQグループの『Q』の意味を知っているか?」

これまた突然の突拍子もない問いに、私は脳内メモを勢いよく捲り、記憶の片隅に回答らしきものを見つけ、すぐさま答えた。

「宮殿の『きゅう』だと記憶しています」

「微妙に合っている。殿宮の『宮』を取った。将来、宮殿にも赴けるケータリングサービスができるように、と願掛けのつもりでな」

なるほど、そこまで深い意味があったのか、と少し感心した。

「それに、Qという響き、何となくカッコいいだろ」と付け加えた。

何だそれ! 感心して損をした。

「お前も宮が付く。共に宮殿を目指そう!」

ハァ? イヤイヤ、そんなキラキラ光る瞳で力強く言われても……。
全くその気はございません! の言葉を飲み込み、職を逃さぬため、「はい」と返事をした。

これがそもそも大間違いだったのかもしれない。
思い起こせば、これが因縁……いや、悪縁の始まりだった……ような気がする。