「あらっ、姫!」
エッ、どうしてここに夢子が?
「先生の代理。美容関連のご招待よ、当然受けるに決まっているじゃない」
美容業界の大御所、ミーヤ・猫田の代理。それを任されるとは、流石、本店店長。
「やだ、ユニフォーム萌えしそう」
ピンクのハートマークを瞳に浮かべ、ツーっと指でコックコートを撫でる。
夢子の前でこの姿は初めてだったな、と思い出す。
「この娘は駄目です! 今、仕事中で指輪をしておりませんが、これは売約済みです」
横から口を挟み、グッと肩を抱く社長。
「お前は、放っておくと誰彼となくちょっかいを出されるな」
ムッとしながら手の甲でクイッと顎を上げる。
今にもキスしそうだ。
ここパーティー会場ですが……公衆の面前ですが……。
「ちょちょっと、違います! この人は夢子さん。同じアパートの人です」
顎から手を退け、もう恥ずかしいことは止めて下さい、と口を尖らす。
「あらっ、このイケメンが指輪の送り主」
夢子はフーンと社長を観察する。その眼が真剣で恐い。
「まっ、合格、かな。姫の保護者、愛染夢子です」
夢子が社長に名刺を差し出す。
いつから保護者になったのだろう?
「こちらこそ失礼いたしました。いつも姫乃がお世話になっています」
張り合っているの? 社長が珍しく名前をキチンと言う。
社長も名刺を差し出すが、何故かジッ夢子を見つめる。
見惚れているのだろうか? 美しいものね、と思っていると……。
「君、男?」
私は二年間気付かなかったのに、速攻で気付く社長。
貴方って目利きだったのですね、と心底感心する。
「流石ね。そうよ、でも心は女だから、心配しないでね」
何を心配するのだろう?
「それに、私にはちゃんとダーリンがいるから」
二人が話を始め、妙に盛り上がっていると思ったら、内容はほとんど私のことだった。
「あらっ、こちらのライバルは強敵ね」
そこに割って入る冷たい声。美麗だ。


