だから、頑張った。
身を乗り出し、グッと社長の目を見て訴えた。
「栄養士として過ごすうち、やはり私は調理することが好きなんだと自覚しました。ですから、ケータリング部門で働かせて下さい!」
私の迫力に、若干だが社長は引きつつも平静な声で質問した。
「なるほど。ご存じだと思いますが、ケータリング部門は我が社でも難関と言われる部所です。何故だか分かりますか?」
それは知っていた。
著名なシェフでさえ門前払いを食らわす部門だと。
「資料等を拝見し私なりに思ったのは、ケータリング部門は、料理ができるだけではダメなのでは? それ以外に、礼儀作法と品位、それに知識や教養が必要なのではないでしょうか?」
殿宮社長の眼がキラリと光った。
「ほほう、何故そう思う?」
いきなりのタメ口? ビビらせて追い返すつもりか、と身構え、応答した。
「ケータリングは、お客様の元に出向き、食事を配膳したり提供したりするサービス事業です。その場限りとはいえ、立ち位置が招待者側にある以上、身内も同じです」
言葉を切り社長の反応を見るが、無表情で読み取れない。仕方がないのでそのまま続ける。
「身内に恥をかかせないためには、一定レベル以上の振る舞いは必要でしょう。それに、知識や教養はあるに越したことがありません。ビップになればなる程、その要求は高まります。故に、その条件を満たす必要があるため、難関だと言われているのだと思います」
「なるほど」
正解とも不正解とも言わず殿宮社長はフフンと鼻で笑った。
あの時、嫌な予感がした。その予感は的中した。


