ベッドに寝転がってテレビを見ていた私は、"ヒュルヒュル、パーン"という音にはっとして、思わず外を眺めた。暗い窓の向こうに大輪の花が咲いていた。花火だ。

「おい、南。」

 私はシャワーを浴びていた友人の南 祐作(みなみ・ゆうさく)に呼びかけた。

「何だ?」

 南が頭をタオルで拭きながらシャワールームから出て来た。

「花火だよ。」

 窓を開けながら、私は言った。眼下にJRの駅舎が見える。

「花火?」

 南は上半身裸のまま窓辺に近づいてきた。ヒュルヒュルという音と共に、また花火が上がった。華麗な花火が幾つも夜空に炸裂する。

 フロント係の話では、今夜、M川で花火大会が行われるということだった。あれはM川辺りで打ち上げられた花火に違いない。

「そういえば──」

 口を開けて花火を眺めていた南がポツンと言った。

「在末くんのマンションからも夏には花火が見えるって言ってたっけ。」

「あぁ……。」
    ...
「彼女、あの夜も花火を見たのだろうか。9階のベランダから飛び下りる前に。」

 南は暗い横顔を見せて言った。