「…何、浮気?」
突然、背後からの痛い視線に気づく。
「っう、浮気なわけないじゃん!…」
振り向かなくてもわかる。
高三になったっていうのに、全然変わってなってないし。
そういえば、今日は早く学校終わるから向かえに来るって言ってたんだった!
「…可愛いって言われて、調子のってるじゃん」
不機嫌そうに目を細めるその顔に、あたしは胸が締め付けられる感覚に陥る。
そんな反応ずるい…。//
「…きゃ〜。あの人かっこいいっ!」
「南校の制服じゃん…?!」
…本当に目立つよね…。
ただ立ってるだけなのに、もう注目の的っていう…。
「あ。…」
いつの間にか、西谷の周りはギャラリーであふれていた。
「西谷先輩ですよねっ!知ってますっ!」
「ファンですっ!」
「ありがとー」
彼女の前で、余裕で女の子たちとイチャイチャし始めるこいつ。
…もう知らない…!
そう思ってふいっと体を反転させると、その瞬間に手を掴まれた。
「どこ行くの…?」
きゅうううう。
もう…ずるすぎる…!
そんな悲しい顔しないでよ…そっちが悪いのにあたしが胸が痛いなんて…何て奴だ。
「…ただ、嫌だっただけ…だから」
「…は?…ああ…そっか。…へぇ〜」
何かが分かったように何度も頷く西谷。
…何その態度…ムカつくんだけど。
あたしが睨んでることにも気づかず、上機嫌な西谷は突如、口を開いた。
「俺の彼女、寂しくなると浮気するから。今日は帰るね、ごめんね」
少し微笑んだ西谷に、女の子たちは目がハートになってる。
まるで、イケメンを見つけた時の美佳みたいに。
「ほら、帰ろ」
平然とあたしの手を握る西谷。
「えっ?!あたしも…?!」
「そうに決まってんだろ」
さっきとは全く別人のように冷たくなる。
でも握られた手は力強くて。
仕事なんて放り出してもいいなんて思ってしまった。
「大橋が生徒会とかありえねー」
「…そんなの知ってるし…」
「…あんま目立つのだめ。特に男共に」
「…西谷みたいに女子ばっかり狙ってる男子なんていないよ」
「…おい。お前…」
握られた手と大きくなった肩幅。
バスケで鍛えられた筋肉と子供みたいな笑顔に、あたしは心臓バクバク。
そんなこと、絶対バレたくないけど…。
平常心だ!大橋!
幸せな時間の後は、もちろんサボったからお説教でした。