栞の恋

『じゃあ…』

と、立ち去ろうとすると、
彼は今、手に取ったブルーのしおりをジッと見つめたまま、

『しおり?』

ポツリとつぶやいた。

思わず名前を呼ばれたのかと勘違いし、ドキッとする。もちろんそんなこと、あるはずがない。

『えっと、それじゃ私はこれで…』
『君の名前』
『…?』
『栞っていうんだね』

驚いて、彼の持つしおりをよく見ると、それは書店で今さっきもらった真っ新なブルーのしおりではなく、先日高橋さんに、ふざけて私の似顔絵と共に“栞のしおり”とダジャレの書かれた、使用済みの“しおり”だった。

『す、すみません、それ違うんです!それは、あの、職場の先輩にいたずら書きされたもので、新品のはココにッ』

鞄から慌てて、真っ新な新しいブルーのしおりを取り出し差し出すが、彼は面白そうに持っていた“栞のしおり”を右手の人差し指と中指に挟むと、それを顔の横に掲げ、

『これで良いよ…っていうか、これが良い』

にやりと笑う。

おそらく5歳以上は上であると思われる目の前の男性が、急に悪戯好きの少年のように感じる。