ちなみに美月は高校から続けて陸上部のマネをしていた。
それが、俺らが付き合ったきっかけでもある。
暑い中、プレハブの部室に向かう。
備え付けはかなりいいんだけど、あっついんだよなー。
こういう時に青高の部室に戻りたくなってしまう。
夏休み入ったら、遊びに行くかな…。
考えていたところで、部室に着き、ドアに手をかけた。
『今回の注目選手は誰でしょうか、イトウさん。』
『やはり、〇×大学の………。』
テレビの声が聞こえてきた。
ほんと、備え付けはいい。
テレビもシャワーも部室についてるから。
ただ、ほんとにクーラーがないのが惜しい。
陸上部ならいらないだろ!!
と、昔の顧問が陸上部にだけつけなかったらしい。
最低だろ………。
「ちーーーす。」
考えながらガラガラっと扉を開ける。
「ちっすーーーー。」
ほとんど全員から声が返ってくる。
着替えをしているやつ、
かばんから何かを探しているやつ、
テレビに釘付けのやつ、
「何見てんだー?」
俺についてくるようにこの大学にやってきた、ひとつ下の後輩、
加藤 泰来に聞く。
「あ、全国選抜ですよ!樹先輩とかも出てるのかなーって思って。」
樹先輩……。
懐かしい名前に心が惹かれる。
俺が出れなかった、
出ることが出来なかった大会。
俺の通う大学からも結構な人数がこの大会に参加していて、今週は部室にいる部員の数も少なかった。
「なるほどねー。」
泰来の返事に言葉を返し、荷物を置いた時………。
『さぁー、注目の女子100m決勝です!』
懐かしい………。
あんなに一生懸命に100mという距離を走るやつ、
他にいただろうか。
涼々はそんなやつだった。
陸上が好きで好きでたまらないやつだった。
100mという距離に、高校生活すべてを賭け、
堕ちたやつだった。