「なげーし、かったりーー。」
式が終わって教室に戻るまでの階段でクラスの誰かが叫んだ。
ふっと、笑えた。
こうやってこんな声聞くのも、最後なんだなぁ。
涙とか、そんなくさいことは俺には出来ないみたいだけど
それでも少し寂しい気持ちくらいはあった。
「えーーー、ここで学んだことは忘れないように!!みんなっ!!幸せになれよ!!幸せになることが、先生からの最後の宿題だ!提出期限はなし!」
担任が涙でぐちゃぐちゃになった顔で、教室中に響く声で言った。
最後のHR。
あたりからはすすり泣きの音が聞こえた。
席替えをして、俺の隣の隣に座る涼々を覗き見ると、
大泣きってわけじゃないけどそれでも涙で頬が濡れているのがわかった。
てか、なんでそんなに担任が泣いてんだよ。
別にこれからも青高に残んのにな………。
でも、振り返ればこの担任との思い出も沢山あった。
例えば全国大会に出発する日、
なぜかクラス全員を従えて駅まで来たり、
体育祭なんて組団の旗を一生懸命振っちゃってるし、
文化祭はステージ発表で途中参加で
ステージで歌ったり。
キーーンコーーンカーーンコーーン……。
最後の、チャイムが鳴り響く……。
教室の扉を誰かが開くと、
ぞろぞろとみんなが出ていった。
最後まで残り、やっと席から立って教室を出ようとしたら。
「翼。」
教室のドアに寄りかかって涼々がこっちを見ていた。
「行かねーのか?部室。」
卒業生が式のあとにそれぞれの部室へ行くのは青葉高校の伝統だ。
それぞれの部室に、油性ペンでメッセージを残す。
だから、青葉高校の部室にはたくさんの思いが込められている。
「最後だから、翼と、行こうと思って。」
にんまりと微笑む涼々は本当に可愛い。
1週間ほど前にまた前のようにばっさり切った髪が涼々の動きに合わせて揺れる…。
「涼々………。」
スクールバッグを肩に掛け、涼々のところに歩み寄る。
日焼けはとっくに消え、白に戻った彼女の肌に触れると、つるんとなめらかで、俺に安心感を与えてくれる。
触れている。
隣にいるって、安心できる。
「大好きだ………。」
そのまま顎をクイッと上げ、
キスをした。
「はいはーーい、ここでイチャイチャすんなよー。」
「いいだろ、卒業式だぞ?今日。」
唇を離すのと同時に廊下から声が聞こえた。
声の主は、
もちろん東。
それに突っ込むつばめ。
そして、有姫。
「んだよ、いたのかよ。」
「あたりめーだろ?最後くらい一緒に行くぞ。」
待ってたってことは、見られてたんだな。
気づかなかった………。
「ほーら、早く行くぞ!」
つばめが俺と涼々の手を引っ張って走り出す。


