「惜しかったなぁーーー。9位とかなんだよ。」



宿舎までの貸切バスに揺られる帰り道。






なぜか東は頭を抱えていた。



「どこが惜しいんだよ、20秒じゃ惜しいも何もってとこだろ。」







俺は思っていた以上に結果がでて、


組で1位、

全体で9位だった。




惜しくも入賞には届かず………。








「まあ、いい経験したんじゃないのか?」



助手席てきなところに座っていたはじめちゃんがこちらを振り返らずに言った。



「大人になったら相当本気にならないと、こんな勝負なんてする事ないぞ?今回の大会はお前にとっては最高の成果になったはずだ。



ところで東、明日も抜けてもらわないと困るぞ?」





はじめちゃんの言葉はなぜかジンと来るものがある。

まだ、子供の俺にはその言葉の意味を全部理解出来なかったりすることもあるけど。






そして、話を振られた東は忘れてたとでも言うように嫌そうな顔をした。





「明日、1500あんじゃーーん。それだけかなー、不安なとこ。」




今日は八種中、三種目が行われて
東はダントツの1位だった。


さすが県大会新記録保持者。



このまま高校生記録まで塗り替えてしまえばいいのに………。







気づけばバスの中で起きているのは俺と東とはじめちゃんだけだった。


あとはみんなスヤスヤと寝息をたてていた。







宿舎まであと5分か……。





こてん、と右肩に力が加わった。




見ると、隣に座った涼々がバスに揺られて俺の肩に頭を乗せていた。






その頭に優しく左手をのせる。






松葉杖は外れた。

でもまだ軽く包帯を巻いている右足が痛々しく彼女の傷を物語っている。







「いつになったら走れんだろうな、そいつ。」






俺の視線に気づいたように、通路をはさんで隣に座る東が言った。



青葉高校の誰もが、
涼々の走りに期待していた。




そして、一気に地獄に落とされた。






あれから半年以上の月日が経つ。


それでもまだ、涼々の足の傷は治っていない。