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「遅かったな。」
東に氷を渡すために行った涼々だったが、帰ってくる頃にはとっくに東の競技は始まっていた。
「楚乃美に、会ったの。」
「そーか。」
赤坂 楚乃美。
涼々が一生のライバルとする人物。
赤坂は涼々より10cmは背が高く、ピッチよりストライドで走る選手。
中学の頃から、女子100mはこのふたりの一騎打ちだった。
負けたことはないにしろ、
”絶対負けない。”
”楚乃美より速く走る。”
口ぐせのようにあいつの名前を出していたから顔はよくわかんねーけど、名前だけは知っていた。
涼々は、悔しそうな顔をしていた。
だいたいはわかる、
赤坂だけが自由に走れて、下手すれば今年はインハイに出れるかもしれないから。
互いに譲ることなく争ってきた2人にとって、
どちらか1人が堕ちることはとてつもない損失感を味わうことになることを知っている。
涼々は今、その”堕とされた”
方の立場だ。
「俺が連れてくから、そんな顔すんなよ。」
えっ?と俺をみる涼々。
「他人の足で踏むことだろうが関係ない、俺がお前を必ず全国の舞台に連れてってやるよ。」
約束を交わしたんだ。
全国に連れてくと。
まだかまだかと、自分のレースが迫るのを待った。
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