『楚乃美、今年こそ優勝できるよ!!』
まほはどんな気持ちで言ったんだろうか。
いつもまほは私が涼々に負けるのを見ていた。
だから、頂点に立てるということだけでも、本当に喜んでいたのかもしれない。
私だって、嬉しいと思った。
やっと表彰台の一番上で
賞状を受け取って
インタビューされると
思ったから。
だから本気で練習に打ち込んだ。
涼々がいないならいないなりにいい結果を残さなければならない。
インターハイだって行きたい。
中学生の頃をピークに、なかなか記録が出ていなかったから最後の今年こそは、と毎日を本気で過ごした。
そして、この競技場にやって来た。
年に一度しか味わうことの出来ないこの空気。
この緊張感。
はじまる………………。
そう思いながらサブトラックまでの道のりを歩いていた時だった。
カツッカツッ…………
目の前を松葉杖を突きながら通り過ぎる彼女から目が離せなくなった。
身長は私より10cmくらい低い。
着ているのは青葉高校のジャージ。
そして、何より彼女のオーラ。
私が知ってる彼女は髪を結んでいないから、若干戸惑ったけど
「涼々………??」
階段を登ろうとしている彼女が振り返って、
あぁ、この人だ………
と感じて、自然と笑みが零れる。
「髪結んでるからわかんなかったけど、やっぱ涼々だ」
新田涼々は
私の知っている
軽やかな足取りで歩き、
ピンクのランシューを履く、
とてつもない強いオーラを放つ人だった。
でも、今見ている新田涼々は
右足に包帯を巻き、
ゆっくりと歩いていた。
そのオーラだけが、
私に新田涼々だと確信させたのかもしれない。
「ちょっとだけ、話そうよ。」


