風になれ




地獄を味わうってこういうことだと思った。








また腫れた右足の甲をさすりながら練習を見ているだけの毎日。

歩くことすらままならないからマネージャーの仕事にも協力することができない。


だから気が向けば筋トレをしていたけど


もうなんの意味も感じなかった。





前までは


インハイ予選で勝たなきゃ。




その思いで走れないあいだは必死に筋トレもした。





だけど、今はもう見てるだけ。








やったって、

なんの意味もないから。







1週間、ただ声を出して


みんなの練習を見守ることだけをしてきた。









「涼々………。お前の分まで戦ってくるよ。」





大会前夜。



会場近くの宿泊施設で翼が言った。







安いホテルのロビーに2人きり。







また泣いていたあたしを見つけてくれて

慰めてくれた。








「俺、今年こそ。優勝するよ。青高の名前を、全国に持っていく。」






そう言えば、翼はずっとこのセリフを言っていたな……。










昨年度は全国出場者なしという、青高にとっては最悪の結果だった。


だから、翼は今年こそ。


と気合を入れていた。





翼だけじゃなくて




東も

つばめも










私だけが全国に行けないと思うと涙がまた溢れてくる。







でも






「頑張ってね、誰よりも傍で見てきた。
みんななら大丈夫だよ………。」







涙でグシャグシャになった顔に

できるだけ笑顔を作って言うんだ。







「無理に笑うなよ………。」






それでも翼にはそんなこと簡単にわかって





また、





涙が止まらなくなる。








全国







行ってみたかったな。


あのトラックを



自分の足で踏みしめてみたかった。







もし、全国に行けたら



それは自分の足でトラックを踏むことにならない。







他人の力を借りているから。







私は


どれだけ陸上が好きなんだか………。