「なんで………、なんで私なの。私は走っちゃいけないの?」
夜の公園に
キーーキーーという翼の乗ったブランコが軋む音だけが響いた。
「試練……………。なのか?」
両足をついたままブランコを前後に揺らす翼が言った。
「試練って言うなら教えて!?なんで私だったの?私の何がいけないって言いたいの?
練習だって誰よりも本気でやってきた。
陸に対する思いだって誰にも負けない。
たった11秒のためだけにもう6年も注いできた。
なのになんで、最後に…………こんな、なん……なきゃ……ない…の??」
止まったはずの涙がまた溢れてきて視界が霞む。
「ごめんな……。俺がちゃんと、気づいてあげれたらよかった。」
ふんわりとシトラスの香りがまわりに溢れるのと同時に翼の声が耳元で聞こえた。
「全国……行きたいよっ!!!」
翼の胸をドツッと拳で叩く。
「いーよ、いっぱい当たれ。気が済むまで俺に当たれ。」
もう、自分の感情をセーブすることが不可能だった。
翼の胸を何度も拳で叩いた。
喚く私をギュッ抱きしめて、私は手を止めた。
その身体は
小さく震えていた。
「俺だって……、お前の走るとこ誰よりも見ていてーよ。
誰よりも側で、お前が、一番になるとこ見てーよ。」
「翼………。」
翼があたしのことをすっぽりと包むから顔は見えなかったけど、泣いているのはわかった。
声がすごく、鼻声だったから。
たくさんの人を悲しい思いにさせてしまった。
周りでいつも支えてくれる仲間
たまに部活に来てくれる樹先輩
何度か一緒に走ったことある駅伝部の仲間
私をたくさん応援してくれた人たちの期待を裏切った気分だった。
私は
県大会を棄権した……。


