風になれ




右足の甲の靭帯は再び切れかかっていた。




修復から間もないのに急激に運動量を増やしたのがいけなかった。

わかってた。


こんなにしてたらもう走れなくなるって。



だけど、走ることをやめることは出来なかった。









生き甲斐だった。

風を切って走ること。
その直線に生命を懸けること。




離れていた時間は辛く、長い道のりだった。





だからこそ、走りたいという気持ちが

完治という言葉を忘れ、


いつしか走りに没頭するようになっていたんだ。







以前、リハビリで通っていた病院で再び包帯を巻かれた。





松葉杖を持たされ、前と同じような状況になってしまった。








その日の夜。




なぜか、無性に翼に会いたくなった。




夜の、9時くらいだったと思う。






チリリリリリーーーン。






タイミングよく、翼からの着信が入った。







『涼々?病院………どーだった?』



いつものように心配する時はすごく優しい、その言い方で聞いてきた。



「ねぇ、翼………」



「ん?」



「今から、会って。」



「……………………あぁ。すぐ行く。」








ピーピーピー………。





すぐに機械音がなった。


翼のすぐは本当にすぐだ。






学校から帰ってきてからのそのままの格好で家を出た。








もちろん、松葉杖をついて……。








「翼………」







彼はすでに、あたしの家の前で

ポケットに手を突っ込みながら立っていた。






「すぐ行くって言ったからな。」





フッと格好をつけて笑う翼がもどかしいくらいに愛しくて。





「翼っ!!!!」




その広い、よく鍛えられた胸の中に飛び込み、わんわん泣いてしまった。








事情を何も知らないまま、翼はよしよしと私が泣きやむまで頭を撫でていてくれた。