風になれ



《side 翼》



涼々は走れるようになった途端、みるみるうちに回復していった。



まるで怪我なんかしてなかったかのように。







でも


それでも



どんなに速く見えても、前までの涼々はいない。






右足首から膝にかけてテーピングをしっかり巻いて、足首にはサポーターもつけてある。




少し長くなった髪を後ろで束ねている涼々。



上半身は前よりも細くなったと思う。
でも、筋肉がしっかりついていていかにも走れそう。




だからこそ、足元を見るのが辛かった。






今だって、笑って1年の毬乃と話している。


だけどその笑顔にはやっぱり焦りが見えるんだ。







すぐにでも走らなきゃ、
勝てない。






まるで目がそう訴えているようだった。






「先輩?そろそろですよ?」



「ん?………あぁ。」



敬に呼ばれ、我に変える。




涼々が戻ってきてからというもの、ぼーっと眺めてしまうことがある気がする。






気になってるから?





俺は涼々が好きだ。





いつだって傍でこいつを見てきた。

いろんな表情をして、たくさん泣くやつ。






もう泣いてほしくない。





そう考えると、何度も気にして涼々を見てしまう。




もっと、


もっと笑ってほしいから。