風になれ




「泰来先輩ー!!キツいっすよこれー!」



メインストレートの方で嘆くような声がした。

この声は………




「おい昇平!!こんな所でくたばってんなよ!
あと5本!」



やっぱり昇平だ。




昇平の実力は本当にすごいと思う。

全中では11.08、ジュニアオリンピックでは10.77でどちらも共に表彰台のてっぺんに昇っている。




それなのに練習嫌いで。

もったいない。



もっと頑張ればもっと速くなれると思うのに……。

昇平は普通に泰来や華月より速い。





こんなところでへこたれるなんて、それでもNo.1かよ、ってツッコミを入れたい。





まぁ、緊張感持たないようなやつだってことは4月の市民体育大会でわかってるし、そんなもんだろうけど。





樹先輩がいなくなってからつばめや東がいない時は
たった3人で練習してきた。

だから、昇平みたいなやつが来てくれて嬉しかったりもするんだけどね。






「私も入るよ」



泰来に声をかけるとえっ!?と目を丸くされた。



「もう、一緒にやって大丈夫なんですか!?」



私は今日、いきなり走り始めた。
それなのにもうハードなメニューに移って大丈夫なのか、と言いたいみたい。





だけど…………



「こんなとこで止まってらんない。

私の目指す場所は走れるだけじゃ行けないんだから。」





華月が口をあんぐりと開けていた。

いやもう、閉じないんじゃないかってレベル。




「華月ほら!行くぞ!みんなもっ!!」


「「はいっ!!」」





そんな華月を引っ張りながら泰来が全員を鼓舞する。

引退したら、リーダーは泰来で決定だね。




そう思っていると





「涼々ちゃん。」


「んー?」



泰来に引っ張られてったはずの華月がいた。




「涼々ちゃん……。

まじ俺ら、涼々ちゃんのために頑張るよ。
涼々ちゃんがインハイ行けるように俺らも全力で付き合ってくよ。

涼々ちゃんの目は、やっぱりかっこいいんだ。」





華月や泰来は私のことを『涼々ちゃん』と呼ぶ。


初めは慣れなくてくすぐったかったけど、今となればもう平気。



それが、私が親しまれている証拠でもあるし。






そんな華月が言った。



『目がかっこいい』



と。






よく言われる。

真っ直ぐにしかものを見つめない、その純粋な瞳がかっこいいと。




だいたい、気持ちを注ぐのは陸上だけなんだけどね。







「ありがと、頑張るよ。」





微笑むと、華月も笑ってはい!と元気よく返事をした。







「華月ー!涼々ちゃーーん!走るよーー!」




泰来があたし達を呼んだ。






みんなに応援されている……。

走んなきゃ。